おりもののにおいが気になる生徒への対応|細菌性腟症の基礎知 識と保健室での声かけ
「最近、おりもののにおいが気になる」
保健室でこうした相談を受けたとき、どう答えればよいか迷う先生もいらっしゃるのではないでしょうか。
おりものの量やにおいには個人差があり、月経周期によって変化することもあります。一方で、普段とは異なる強いにおいが続く場合には、婦人科疾患が隠れていることもあります。
その代表的な原因のひとつが「細菌性腟症」です。
この記事では、養護教諭の先生方に知っておいていただきたい細菌性腟症の基礎知識と、生徒の不安に寄り添いながら婦人科受診につなげるためのポイントをご紹介します。
細菌性腟症とは:腟内の「細菌バランス」が崩れた状態
思春期以降の腟内には通常、乳酸菌の一種であるラクトバチルス属の細菌が多く存在しています。
これらは乳酸をつくることで腟内を酸性に保ち、ほかの細菌が過剰に増殖するのを防ぐ役割を担っています。
細菌性腟症は、この乳酸菌が減少し、嫌気性菌などの細菌が増えることで、腟内の細菌バランスが崩れた状態です。
クラミジア感染症や淋菌感染症のように、特定の病原体による一般的な性感染症とは異なりますが、性行為との関連が認められています。
性交経験のない人にも起こることがありますが、性交経験のある人と比べると少ないとされています。
そのため、細菌性腟症になったからといって、必ずしも性行為の経験があるとは限りません。
主な症状と、生徒が気にしやすいポイント
細菌性腟症では、以下のような症状がみられることがあります。
- 魚のような、生臭いにおい
- 灰色がかった、水っぽいおりもの
- 性交後や月経中に、においが強まることがある
一方で、細菌性腟症になっても自覚症状がない人も少なくありません。
また、おりもののにおいや性状の変化は、細菌性腟症以外にも、カンジダ症、腟トリコモナス症、クラミジア感染症などの性感染症、その他の婦人科疾患によって生じることがあります。
おりものの見た目やにおいだけで、原因を判断することはできません。
生徒から相談を受けた場合には、自己判断を促すのではなく、必要に応じて婦人科で検査を受けるよう勧めることが大切です。
特に、発熱、下腹部痛、強い痛み、不正出血などを伴う場合は、早めの医療機関への受診が必要です。
「洗いすぎ」が逆効果になることを伝える
おりもののにおいを気にする生徒ほど、「清潔にしていないからではないか」「もっと洗わなければ」と考えることがあります。
しかし、腟には本来、細菌のバランスを保つ仕組みが備わっています。
腟の中まで洗浄すると、このバランスが乱れ、かえって細菌性腟症の発症や再発につながる可能性があります。
米国CDC(疾病対策センター)も、腟内洗浄は再発リスクを高める可能性があり、治療や症状の改善に有効であるという根拠はないとしています。
日常的な清潔ケアでは、腟の中まで洗う必要はなく、外陰部をやさしく洗う程度で十分です。
そして、生徒にはぜひ、次のことを伝えてください。
「おりもののにおいが気になるのは、不潔だからとは限らないよ。体の中の細菌のバランスが変化していることもあるんだよ」
においの問題を本人の清潔習慣や努力不足と結びつけないことが大切です。
治療と再発予防
細菌性腟症と診断され、症状がある場合には、薬による治療が行われます。
治療には腟錠や内服薬などが用いられ、多くの場合、症状の改善が期待できます。
治療後に症状が改善すれば、通常は再診を必要としませんが、医師から指示がある場合にはそれに従います。
一方で、細菌性腟症は再発することもあるため、症状が改善しない場合や再び症状が現れた場合には、改めて婦人科で相談することが大切です。
再発リスクを減らすためには、腟内洗浄を避けることや、性行為の際にコンドームを適切に使用することなどが挙げられます。
また、腟内の乳酸菌を増やすことを目的としたプロバイオティクスの研究も行われていますが、市販の乳酸菌サプリメントによる治療効果や再発予防効果は十分に確立されていません。
自己判断で市販品に頼るのではなく、気になる症状が続く場合には婦人科受診を勧めてください。
保健室での対応ポイント
① 否定せず、まず受け止める
「話してくれてありがとう」「気になるよね」と、生徒が相談してくれたことを受け止めましょう。
おりもののにおいは、特に思春期の生徒にとって、人に話しにくい悩みのひとつです。
「ちゃんと洗っているの?」など、本人の清潔習慣を責めるような言葉は避けることが大切です。
② 性経験を詮索しない
細菌性腟症は性行為との関連が認められていますが、性交経験のない人にも起こることがあります。
そのため、保健室で相談を受けた段階で、性行為の経験を無理に聞き出す必要はありません。
生徒が自分から話した場合には、その内容を尊重し、プライバシーに配慮して対応しましょう。
③ 婦人科受診への不安を軽減する
思春期の生徒の中には、婦人科を受診したことがなく、診察に対する不安を抱えている人もいます。
「婦人科は、病気かどうかわからなくても相談できる場所だよ」
「どんな診察や検査をするのか、不安なことは事前に先生に聞いていいんだよ」
このような声かけによって、受診への心理的なハードルを下げることができます。
診察や検査の方法は、年齢や症状、性交経験などを踏まえて医師が判断します。必ずしも全員に同じ検査を行うわけではありません。
④ 生徒の背景にも目を向ける
おりものの悩みをきっかけに、性行為や交際相手との関係について相談を受けることもあるかもしれません。
その背景に、望まない性行為の強要や性被害が隠れている可能性もあります。
生徒の話を否定せず、無理に詳細を聞き出さないことが大切です。
安全の確保や支援が必要な場合には、本人の気持ちとプライバシーに配慮しながら、学校の対応方針や関係法令に従い、管理職や専門機関などと連携しましょう。
生徒が自分の体の変化に気づき、相談できるように
おりもののにおいに関する悩みは、思春期の生徒にとって、とてもデリケートな問題です。
「こんなことを相談してもいいのだろうか」と不安を感じながら、保健室を訪れる生徒もいるでしょう。
だからこそ、相談したことを否定されず、正しい知識とともに受け止めてもらえる経験は重要です。
自分の体に起きている変化に気づき、困ったときには相談し、必要な医療につながることができる。
保健室でのこうした経験が、生徒自身が将来にわたって自分の健康を守る力につながっていくと考えています。
学校・教育機関のご担当者さまへ
フィデスレディースクリニックでは、婦人科診療に加え、学校・企業・団体向けに、女性の健康や性に関する講演・取材協力・記事監修を行っております。生徒・保護者・教職員向けの講演や研修をご検討の方は、下記よりお問い合わせください。
▼講演や取材のお問い合わせ → https://fides.clinic/request/
◇フィデスレディースクリニック田町 → https://fides.clinic/
◆フィデスレディースクリニック上野 → https://fides-ueno.clinic/
監修
内田 美穂(産婦人科専門医/医療法人社団レースノワエ 理事長、フィデスレディースクリニック田町 院長、フィデスレディースクリニック上野 総括院長)
出典
- 日本性感染症学会『性感染症 診断・治療ガイドライン 2026』。2025年12月18日発行。
- CDC. Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021: Bacterial Vaginosis. 2021年7月23日。
- WHO. Bacterial vaginosis. 2025年11月21日。
- ACOG. Concurrent Sexual Partner Therapy to Prevent Bacterial Vaginosis Recurrence. 2025年10月16日オンライン公開。
- American Academy of Pediatrics. Vaginal Discharge. 2026年1月22日。