黄体ホルモンと女性の健康支援
「生理前はいつも調子が悪そう」を放置しない
――黄体ホルモンの基礎と企業にできる女性の健康支援
「月の特定の時期になると、決まってパフォーマンスが落ちるメンバーがいる」「体調不良の理由を聞きづらく、マネジメントに迷う」――人事や現場の管理職から、こうした声を伺うことが増えました。その背景にあるのが、排卵後に分泌される女性ホルモン「プロゲステロン(黄体ホルモン)」による心身の変化です。
経済産業省が2024年2月に公表した試算では、月経随伴症や更年期症状など女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円にのぼります。一方で、企業が支援に取り組んだ場合のポジティブインパクトは最大で年間約1.1兆円とも試算されており、女性の健康支援はもはや福利厚生ではなく、生産性と人材定着に直結する経営課題です。
人事担当者のための3分基礎知識:黄体ホルモンとは
女性ホルモンには大きく「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の2種類があります。プロゲステロンは排卵を終えたあとに分泌が増えるホルモンで、妊娠に備えて体を整える役割を担います。具体的には、受精卵を迎えるために子宮内膜を厚く保つはたらきがあります。
また、卵胞が育つのを抑える作用を持つことから、避妊を目的とした薬剤にも広く応用されています。つまり黄体ホルモンは、女性の体のリズムを毎月大きく動かしている主役のひとつなのです。
生理前のパフォーマンス低下――プレゼンティーイズムの正体
生理前の時期に、胸の張り、むくみ、食欲の亢進による1〜2kg程度の体重増加、気分の落ち込みなどを経験する女性は少なくありません。これらの変化はいずれも黄体ホルモンの影響によるものです。
本人は出社して業務をこなしていても、集中力や判断力が普段どおりに発揮できない――いわゆる「プレゼンティーイズム(出勤しているのに生産性が落ちている状態)」は、欠勤よりも損失が見えにくい分、対策が後回しになりがちです。経産省の試算でも、女性特有の健康課題による損失の多くを欠勤ではなくこうしたパフォーマンス低下が占めることが指摘されています。月次で波がある不調は本人の努力や意欲の問題ではなく、ホルモンという生理的なメカニズムに起因する、というのが出発点になります。
見落とされがちな2つの視点
1つ目は、「不調がない=問題なし」とは限らないことです。医学的には、生理前の不調があることは、排卵が起こり黄体ホルモンが分泌されているサインと捉えられます。逆に、出血はあるのに生理前の変化をまったく感じない場合、排卵が起きていない可能性も考えられます。また、月経周期の正常範囲は25〜38日、出血期間は3〜7日とされており、周期が極端に短い・長い、経血量が極端に多い・少ないといった状態はホルモンバランスの乱れのサインかもしれません。放置すると卵巣機能の低下につながるおそれもあるため、早めに婦人科へ相談できる環境が重要です。
2つ目は、この知識を必要とするのは女性従業員だけではないという点です。評価やマネジメントに関わる男性管理職が体のリズムによる変化を基礎知識として理解しているかどうかで、声のかけ方も配慮の質も大きく変わります。健康経営やD&Iの文脈では、管理職層を含めた全社的なヘルスリテラシー教育が成果を左右します。
企業が取り組める女性の健康支援施策
黄体ホルモンに起因する不調への対応として、企業には次のような施策が考えられます。
全従業員向けのヘルスリテラシー研修
女性ホルモンの基礎を、管理職・男性従業員も含めて学ぶ機会をつくる
柔軟な働き方の整備
時差出勤・テレワーク・時間単位休暇など、不調の波に合わせて働き方を調整できる制度
相談導線の確保
産業医・産婦人科医への相談窓口やオンライン相談を整備し、「受診をためらわない」文化をつくる
健診の充実
婦人科検診の補助や受診勧奨により、ホルモンバランスの乱れや疾患の早期発見につなげる
これらの取り組みは、経済産業省の「健康経営優良法人」認定でも評価される項目であり、採用ブランディングや離職防止の観点からも投資対効果が見込めます。
まとめ:専門医との連携が第一歩
黄体ホルモンによる毎月の変化は、個人の我慢に委ねるのではなく、職場の仕組みで支えられる課題です。ただし、施策の設計や研修の内容には医学的な正確さが欠かせません。産婦人科の専門医と連携しながら、自社の実情に合った女性の健康支援を進めていくことをおすすめします。
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執筆・監修
産婦人科医 内田 美穂
出典
経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(令和6年2月):https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf