PMSと健康経営

毎月の「不調の数日間」が組織の生産性を左右する

「月初の数日だけ、いつも調子が出ない」「会議で集中できていない様子のメンバーがいる」──その背景に、PMS(月経前症候群)が隠れているかもしれません。PMSは月経のある女性の多くが経験する医学的な状態でありながら、職場では本人からも言い出しにくく、マネジメント側も気づきにくいテーマです。

経済産業省が2024年2月に公表した試算によると、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円にのぼり、このうちPMSを含む月経随伴症状によるものは約0.6兆円を占めます。同時に、企業が支援に取り組んだ場合のポジティブインパクトは最大で年間約1.1兆円とも試算されており、女性の健康支援はもはや福利厚生ではなく、生産性と人材定着に直結する経営課題と位置づけられています。

人事担当者のための3分でわかるPMS基礎知識

PMS(premenstrual syndrome/月経前症候群)は、月経の前に心身の不調が現れる状態です。明確な原因は解明されていませんが、思春期前や閉経後、卵巣機能が低下した女性には見られないことから、卵巣から分泌される「エストロゲン」「プロゲステロン」という女性ホルモンの変動が関与していると考えられています。
症状は200種類以上あるとされ、現れ方には大きな個人差があります。からだの症状としては、頭痛・腹痛・おなかや胸の張り・むくみ・体重増加・ニキビなど。こころの症状としては、イライラ・不安・抑うつ・怒りっぽさ・食欲の亢進などが代表的です。

注意すべきは、似た症状が子宮内膜症や子宮筋腫といった疾患でも起こりうる点です。「PMSだろう」という自己判断で済ませず、婦人科での検査につなげることが重要であり、ここに企業として受診を後押しできる余地があります。

PMSが職場のパフォーマンスに与える影響

PMSの影響は「休む」というかたちだけでは現れません。出社はしているものの集中力や判断力が落ちている状態──いわゆるプレゼンティーイズム──こそが、損失の大半を占めるとされています。月経随伴症状による経済損失約0.6兆円の内訳でも、欠勤による損失よりも業務効率の低下による損失のほうが大きいと報告されています。
さらに見逃せないのが、PMSとストレスの密接な関係です。ストレスの多い環境はPMSのリスク要因であり、喫煙・飲酒などの生活習慣や肥満も影響するとされます。また、几帳面で誠実、何かあると自分を責めてしまう、といった性格傾向の方に症状が出やすいことが知られています。つまり、責任感が強く成果へのコミットメントが高い人材ほど、不調を抱えながら無理を重ね、誰にも相談できずにパフォーマンスを落としている可能性があるのです。
この状態を放置すれば、慢性的な自己評価の低下やキャリアへの諦めにつながり、最終的には休職や離職という形で組織の損失になりかねません。

見落とされがちな3つの視点

若手社員こそ当事者である
PMSは妊娠・出産期や更年期に限らず、排卵のあるすべての年代で起こります。入社間もない若手が「体調管理ができていない」と誤解されるケースは、エンゲージメント低下の典型的な入り口です。

男性管理職の理解が施策の成否を分ける
制度を整えても、直属の上司に基礎知識がなければ部下は申告できません。管理職向けのヘルスリテラシー教育は、女性向け施策と同等以上に重要です。

本人もPMSと気づいていないことがある
症状が多様であるため、本人が月経周期との関連に気づいていない場合があります。健康教育の機会提供は「気づき」をつくる施策でもあります。

企業が今日から取り組める5つの施策

全社向け・管理職向けの健康教育研修
PMSを含む女性の健康課題を「個人の問題」から「組織で支えるテーマ」へ転換する土台づくり。外部の産婦人科専門医による研修は、社内講師よりも心理的に受け入れられやすい利点があります。

柔軟な働き方の選択肢
症状の重い日に在宅勤務や時差出勤を選べる制度は、欠勤・プレゼンティーイズム双方の抑制につながります。

相談導線の整備
産業医・保健師や外部の婦人科クリニックにつながる相談窓口を明示し、上司を経由せずアクセスできる設計にすることが利用率を左右します。

受診しやすい環境づくり
婦人科ではピルや漢方、サプリメントなど本人に合った治療選択肢が提示できます。通院に使える休暇制度や就業時間内受診の容認は、治療による改善を後押しします。

健康経営優良法人認定の活用
認定基準には女性の健康保持・増進に向けた取り組みが含まれており、施策を社内外に可視化し、採用ブランディングにも活かせます。

まとめ:専門医と連携した「続く」健康支援を

PMSは適切な生活改善と治療によってコントロールしうる、対処可能な健康課題です。だからこそ、従業員任せにせず、企業が正しい知識の提供と受診しやすい環境づくりに踏み出すことが、生産性の回復・離職防止・組織への信頼につながります。施策の設計段階から産婦人科専門医の知見を取り入れることで、医学的な正確さと現場で機能する実効性を両立できます。

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執筆・監修
産婦人科医 内田美穂(フィデスレディースクリニック)

出典
経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」(2024年2月):https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/jyosei_keizaisonshitsu.pdf