PMSの見極めと相談窓口

「たぶんPMSだと思います」――その一言を、人事はどう受け止めるべきか

「生理前だけ、少し様子が違うんです」。従業員からそう打ち明けられたとき、御社ではどの窓口を案内していますか。婦人科でしょうか。落ち込みやいら立ちが強ければ心療内科でしょうか。それとも、まず産業医面談を勧めるでしょうか。

この問いに即答できる担当者は多くありません。答えにくいのには、はっきりした理由があります。月経前の不調は、からだの症状とこころの症状が同時に現れるため、どの診療科の話なのかが外から見えにくいのです。しかもやっかいなことに、まったく別の病気が、よく似た症状を出すことがあります。

本稿でお伝えしたいのは、人事が症状を見分けられるようになるべきだ、という話ではありません。むしろ逆です。「決めつけずに、正しい入り口へ渡す」ための考え方を、産婦人科の診察室から整理します。

PMSは「症状の名前」ではなく「時期の名前」

PMS(月経前症候群)とは、月経前に現れるからだと心の不調の総称です。特定の一つの症状を指す言葉ではなく、「月経前という時期に起きる不調」をまとめて呼んでいるにすぎません。報告されている症状は非常に多岐にわたります。

からだの症状としては、お腹の張り、胸の張り、腹痛、頭痛、体重の増加、ニキビ、脚のむくみなど。こころの症状としては、抑うつ、いら立ち、不安、怒りっぽさなどが挙げられます。この幅の広さこそが、職場で「何科の話なのか分からない」状態を生む正体です。

原因はまだ完全には解明されていません。ただ、排卵のある女性に起こり、排卵が起こらない状態では基本的にみられないことから、排卵後のエストロゲンやプロゲステロンの変動などが関与していると考えられています。

症状が当てはまっても、PMSと断定はできない

ここが本稿の核心です。先に挙げた症状に当てはまるからといって、それがPMSであるとは限りません。子宮内膜症や子宮筋腫といった病気でも、腹痛や腰の重さ、体調の波など、よく似た症状が出ることがあるためです。

つまり「PMSかもしれない」と本人が感じた時点でできる最も確実な行動は、セルフケアを始めることでも、市販薬を選ぶことでもなく、婦人科で検査を受けることです。検査の結果としてPMSと判断されることもあれば、治療を要する別の疾患が見つかることもあります。この分岐を飛ばしてしまうと、対処が的外れになるだけでなく、背景にある疾患の発見が遅れます。

人事や上司が「それはPMSだね」と善意で名前を付けてしまうことは、この分岐を静かに閉じてしまう行為でもあります。理解を示したつもりが、受診の機会を奪ってしまう。現場で起こりやすい、もったいないすれ違いです。

診察室から見た、職場で判断に迷いやすい3つの相談

実際に企業のご担当者からご相談をいただく場面を、個人が特定されない形で3つに整理しました。いずれも「どこにつなぐか」で結果が変わる場面です。

【相談1】月に数日だけ、明らかに集中力が落ちる従業員がいる。
このとき最初に確認すべきは症状の重さではなく、周期との結びつきです。不調が毎月ほぼ同じ時期に現れ、月経が始まると軽くなるという波があるかどうか。この情報は本人しか持っておらず、そして多くの場合、本人も記録していません。基礎体温や体調の記録を勧めることは、それ自体が受診時の情報になります。

【相談2】強い落ち込みやいら立ちを訴え、本人はすでに心療内科に通っている。
精神症状に対して、精神科や心療内科で薬物療法などが行われることは、もちろん適切な治療の一つです。

ただし、その症状が月経前に悪化し、月経が始まると軽くなるなど、月経周期と連動している場合には、PMSやPMDDが関係している可能性もあります。その場合、婦人科の視点が加わることで、治療の選択肢が広がることがあります。

「すでに心療内科に通っているから、婦人科は必要ない」「婦人科を受診するなら、心療内科は必要ない」という関係ではありません。症状によっては、両方の診療科からアプローチすることが有効です。

職場の人事担当者が診断する必要はありません。「もし月経周期によって症状の強さが変わるようであれば、そのことも主治医に伝えてみてください」と一言添えるだけでも、適切な治療につながるきっかけになります。

【相談3】腹部の張りや痛みが強く、月経前から月経中まで続いている。
痛みが主症状で、しかも月経中も続く場合は、PMSとして扱う前に器質的な疾患の有無を確認する必要があります。この相談を「月経前の不調」の枠に入れてしまうと、検査の入り口から遠ざかります。迷ったときほど婦人科へ、が最も安全な案内です。

人事が診断せずに使える、3つの判断の分かれ目

担当者に必要なのは、医学的な鑑別能力ではありません。大切なのは、症状の特徴を整理して、必要に応じて適切な医療につなげることです。次の3点を確認するだけでも、案内の精度は大きく変わります。

① 周期と結びついているか
毎月同じような時期に症状が現れるか、月経が始まると軽くなるか。はっきりしない場合には、まず症状と月経周期を記録してみることを勧めます。

② 痛みが主役か、気分の変化が主役か
強い月経痛や出血など、婦人科領域の症状がある場合には、婦人科への相談を勧めます。一方、気分の落ち込みやいら立ちなどが中心であっても、それが月経周期と連動している場合には、PMSやPMDDの可能性もあるため、婦人科という選択肢があります。

③ すでに医療機関につながっているか
セルフケアを試したかどうかだけではなく、現在どこかの医療機関に相談しているかを確認します。すでに精神科や心療内科などに通院している場合でも、症状が月経周期と連動しているのであれば、そのことを主治医に伝えたり、必要に応じて婦人科にも相談したりするという選択肢があります。

この3つ目が、実務上いちばん効きます。月経に伴う症状で生活に支障を感じている女性400名を対象にした2024年の調査では、53.3%が婦人科を「受診したことがない」と回答し、その理由として最も多かったのが「受診すべきかどうか分からない」(46.5%)でした。受診をためらわせているのは、費用でも時間でもなく、判断のつかなさだったのです。

逆にいえば、職場の側が「それは受診していい症状です」と一言添えられれば、その一言が最大のハードルを外すことになります。制度を増やすより先に、まずここです。

窓口を一本化するより、「行き先」を持たせる

相談窓口の設計というと、入り口を一つにまとめる話になりがちです。しかし月経前の不調のように、婦人科・心療内科・産業保健にまたがるテーマでは、入り口の数より、そこから先の行き先が用意されているかどうかが結果を分けます。窓口が一つでも、その先が「様子を見ましょう」で止まるなら、従業員は二度目の相談をしません。

行き先を持たせるうえで、担当者が知っておくと実務が滑らかになる点を挙げます。治療の選択肢には低用量ピル、漢方薬、向精神薬などがあり、ピルについては自費のものでも保険適用のものでも効果は期待できます。費用面を理由に相談をためらう従業員に対し、「保険で扱えるものもあります」と伝えられるかどうかは、案内の質に直結します。また漢方薬は体質や症状に合わせて処方されるため、症状が多岐にわたる場合には複数種類が処方されることもあります。「一つ飲んで効かなかったから終わり」ではない、という理解があるだけで、途中離脱を減らせます。

これらは人事が判断する事柄ではありません。しかし、行き先の輪郭を知っている担当者の案内は、知らない担当者の案内とは明確に違います。

人事の役割は、診断ではなく「決めつけないこと」

月経前の不調をめぐって職場が果たせる役割は、症状を見分けることではありません。名前を付けずに、判断できる場所へ渡すことです。「たぶんPMSです」という本人の言葉を、そのまま結論にしない。そのわずかな慎重さが、背景にある疾患の発見にも、適切な治療への到達にもつながります。

そして、その渡し先の精度を上げるには、社内の知識だけでは限界があります。産婦人科の専門医と連携し、自社の相談フローが実際の診療の流れと噛み合っているかを一度点検することを、あらためてお勧めします。

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執筆・監修
内田 美穂(産婦人科専門医/医療法人社団レースノワエ 理事長、フィデスレディースクリニック田町 院長、フィデスレディースクリニック上野 総括院長)

出典
株式会社ヘルスアンドライツ「月経随伴症状と婦人科受診に関する調査」(2024年1月18日〜19日実施/15〜49歳の月経随伴症状により生活に支障を感じている女性400名/インターネット調査)
調査リリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000042562.html